重要なのは教員の不安をフィルタリングで払拭していくこと
大阪府にある河内長野市は、人口約10万人の自治体で、子育てしやすい街をめざして教育立市宣言をしています。市内には小学校が13校、中学校が7校あり、GIGAスクール構想の前からICT教育にも力を入れ、指導者用タブレット端末や学習者用端末、さらには統合型校務支援システムの導入を進めてきました。
「こうした取り組みがあったからこそ、GIGAスクール構想では早くから情報収集を行い、整備に着手できました」と語るのは、河内長野市教育委員会 教育推進部 教育総務課の早川卓志氏です。2020年のコロナ禍で前倒しされたGIGAスクール構想について、教育現場では迅速な対応が求められましたが、河内長野市では早い段階からChromebookの採用を決定し、全校のネットワーク環境や「i-FILTER@Cloud」GIGAスクール版(以下、「i-FILTER@Cloud」)を整備しました。同年10月末には、全児童生徒5,586台の学習者用端末を配備し、学校での活用をスタートさせています。
一方で、今までの環境から1人1台環境に変わることについて、教員には戸惑いや不安もあります。子どもたちが不適切な使い方をしたときは、どうすればいいか。タブレットPCは学習に役立つ便利なツールである反面、汎用的な使い方ができてしまう怖さもあります。現場の教員は、家庭で自分の端末を持っている児童生徒がSNSなどのトラブルに見舞われていることを日常的に肌で感じており、そんなツールが1人1台環境で学校現場に導入されることを懸念する声もあるというのです。
これについて教育指導課 主幹の前翔太氏は、市全体で1人1台活用を進めていくために、教員の不安を払拭していくことが重要だと語っています。
「そのためには、子どもたちの情報活用能力を向上させていくことが大切ですが、最初のスタート段階ではモラル教育の取り組みも進んでいません。そのため、フィルタリングである程度の制限を端末に設定することは必要だと
考えました」(前氏)。
1人1台環境では教員も
安心して使える環境が大切
また、教育指導課 課長の生田真志氏も、「SNSやスマートフォンに関するトラブルが子どもたちの身近で起きている現実がある中で、何かトラブルが発生してからフィルタリングを入れるという考えは初めから無く、本市ではGIGAスクール構想の整備当初から『教育現場ならフィルタリングの導入は当たり前』だと考えていました」と述べています。
学校外で使うときもインターネットの利用時間を制御できることがメリット
教育推進部 教育指導課
参事 篠﨑 正則氏
教育推進部 教育指導課
課長 生田 真志氏
河内長野市がフィルタリングに「i-FILTER@Cloud」を選んだのは、これまで小中学校のパソコン教室でもオンプレミス版の「i-FILTER」を導入しており、インターネットの利用について安全な環境が構築できていた実績があるからだといいます。
これに加えて早川氏は、「GIGAスクール構想を進めるにあたっては、校外学習やオンライン学習、持ち帰りなど、学校以外で端末を活用する新しい学びの形も増えると考え、児童生徒がどこからアクセスしても安心・安全な環境で使えるよう『i-FILTER@Cloud』の導入を決めました」と述べています。
なかでも評価いただいたポイントは、インターネットの利用時間を制御できる点でした。「本市ではChromebookを選択したので、インターネットの利用時間を制限できることは、端末の利用時間自体を制御できることになり、持ち帰りを実施した場合も、自宅で使いすぎる心配はありません。これは自宅で活用する際の指導において、学校現場の負担を抑えられると考えましたし、他社製品にはこのような機能はなかったのでメリットだと思いました」(早川氏)。
また、「i-FILTER@Cloud」は細かくルール設定ができるのも魅力だったと早川氏。「一様にYouTubeをブロックするのではなく、見せる動画と見せない動画を細かくコンテンツレベルで設定できるので、教員が授業で使いたい動画にも対応できるようになりました」と早川氏は述べています。ほかにも、GIGAスクール構想では限られた予算の中で、さまざまなものを整備する必要がありましたが、デジタルアーツの担当営業による柔軟な対応からコスト面の課題もクリアでき、「i-FILTER@Cloud」導入に至ったとのことです。
河内長野市では、GIGAスクール端末に「i-FILTER@Cloud」を導入する方法として、ChromeAgent(Google管理コンソールを利用したインストール方法)を活用したキッティングを採用いただきました。端末1台1台を個別で細かくセットアップする必要はなく、複数端末を同時に一括でキッティングできるようになり、作業の効率化にもつながっています。
想定以上にスムーズに運用できている
その内容をスライドにまとめる
共同編集を活用したグループ学習
実験の予測をアンケートで集計
1人1台環境の開始から4か月が過ぎた河内長野市では、どのようにChromebookを活用しているのでしょうか。
前氏は、「初歩的な使い方から、徐々にドキュメントやスプレッドシート、スライドを使った共同編集など、活用の広がりが見られるようになってきました」と語っています。
たとえば、スプレッドシートを活用したデータの集計や、ネットの情報を利用した調べ学習、また単元の振り返りとして、学んだことをスライドにまとめて発表するなど、授業の中でICTを活用する場面が増えています。
さらに現場では、Google Meetでクラス全員がつながり、教員の板書スライドを画面共有して、生徒の手元で見せるといったユニークな使い方もしているとのことです。入力フォームを活用して学習の定着についてアンケートを実施したり、授業の導入部分で実験の予測を記入して可視化したりするなど、教員のアイデアを活かした使い方も出てきました。
前氏はここまでの取り組みを振り返り、「授業の稼働時間はYouTubeを許可しているものの、他の動画コンテンツやSNSは制御しているので、かなり落ち着いて学習に取り組めていると思います」と語っています。
「小学生については、キーボード操作など基本的なスキルを心配していたのですが、子どもたちはとても意欲的に使っており、端末導入から4か月がたちましたが、徐々に入力に慣れてきています。このようなスキルは、主体的に学んでいないと身につかないものだと思っています。表情もいきいきしているのがいいですね」と前氏は子どもたちの変化を語ってくれました。
ICT整備を担当した早川氏は、「i-FILTER@Cloud」によって確認できるデータ通信量をもとに、目に見えて活用状況が増えているといいます。
「導入当初は、現場にどれだけ使ってもらえるか不安でしたが、活用が増えてきて喜んでいます。もっとトラブルが起きるのではないかと想定していましたが、思っている以上に上手くいっているので驚いています」(早川氏)
インターネットやYouTubeを制限し、安全な学習ツールとして自宅に持ち帰る
河内長野市では、1人1台環境の実施から3か月後に、市内の全小中学校で試験的にChromebookの持ち帰りに取り組みはじめました。対象学年は、小学4年生~6年生と中学1年~2年生で、クラスごとに実施。最初は「安全に持ち帰って、学校に持って来る」ところからスタートし、徐々に取り組みを広げていく予定です。
教育指導課 参事 篠﨑正則氏は持ち帰りの実施について、「教員が保護者の方に、フィルタリングで制約を設けた安心・安全な端末を持ち帰らせる、と説明できたことが良かったです。保護者の方も家庭でのインターネット利用が心配ですが、時間帯や各アプリ(特にYouTube)ごとに利用を制限してあることが安心感にもつながりました」といいます。
具体的には、小学生は夜10時~朝6時、中学生は夜11時~6時まで、「i-FILTER@Cloud」の機能を活用してインターネットの利用を制限。また時間割機能を活用して、学校にいる時間帯はYouTubeを許可するものの、自宅にいる時間帯の利用は禁止しています。持ち帰りの際は想定外のトラブルが起こらないかも心配ですが、「i-FILTER@Cloud」で家庭での利用状況も確認できることが、教員の安心につながっているようです。
今後の取り組みについて前氏は、教員の活用をさらに広げていくことが課題だと話しています。現場には、まだまだICT活用に抵抗のある教員もいることから、そうした教員が無理なく使える環境を実現するために、研修などにも力を入れ、底上げに取り組んでいきたいとのことです。教員のICT活用を促進して活用範囲をさらに広げ、タブレットPCが「文房具」になるような学びの環境づくりに、「i-FILTER@Cloud」の貢献が期待されます。