生徒に貸与する500台のiPadを
いかに安全に運用しながらICT教育の効果を上げるか?

教諭 山口 大輔氏
全国屈指の中高一貫教育の私立校として、そして幼稚園から大学・大学院までを擁する総合学園として広く知られる桐蔭学園。2014年に創立50周年を迎えるにあたり、同校では「自ら考え判断し行動できる子どもたち」の育成を目指し、8つのアクションプラン「Agenda 8」を策定しました。中でも目玉といえる取り組みが、生徒同士のディスカッションやグループ形式での討議・発表を重視した新たな学習法「アクティブラーニング」の導入と、ICTリテラシーを早い段階から学ばせることを目的とした「ICT教育」でした。
折しも2011年には、文部科学省から「2020年までにすべての学校で、全生徒1人1台のタブレット端末を導入したICT教育を実現する」との方針が出され、これに対応するために桐蔭学園においてもタブレット端末を使ったICT教育の検討が続けられていました。結果、まずは2015年4月から中学・中等1年生の授業に、タブレット端末を使ったアクティブラーニングを導入する方針が決まりました。
利用するタブレット端末としては、幾多の選定プロセスを経た後、「バッテリーの持ちのよさ」「生徒がすぐ操作を覚えられる」などの要件を高いレベルでクリアしたiPad Air2(Wi-Fiモデル)が、そして授業で使われる教育用アプリケーションとしては、アクティブラーニング形式の授業の運用に極めて適しており、現場の教師から要望が高かった「ロイロノート・スクール」が採用されました。
さらには、生徒用と教師用を合わせ初期導入時で600台以上、次年度以降はさらに数が増えることが予想された膨大な台数のiPadを、確実かつ効率よく管理できるよう、大企業での導入・運用実績、ノウハウに優れ、アプリケーションの配布・管理機能に定評のある「CLOMO MDM」が採用されました。こうして同校では2015年4月より、中学・中等1年の全生徒にiPadを貸与し、学内での授業はもちろんのこと、課外活動や自宅学習においてもiPadを全面的に取り入れることになりました。
しかし前述した製品群だけでは、同校が目指すICT教育のニーズは満たせませんでした。今回のiPad導入プロジェクトを率いた、桐蔭学園中学校男子部 教諭 山口大輔氏によれば、同校が導入したiPadには、独自のセキュリティ方針があったといいます。
「生徒はiPadを使ってインターネットにアクセスできますが、学内からのアクセスは学内ネットワークのファイアウォールを必ず経由するため、生徒たちの教育上望ましくないサイトやサービスへのアクセスはファイアウォール上でブロックすることができます。しかし自宅に持ち帰った後は、学内ファイアウォールを経由せずにインターネットに直接アクセスできてしまいます。そのため、学外からのインターネットアクセスに対して、別途アクセスに制限を設けるフィルタリングの仕組みを導入する必要がありました」
学外からのインターネットアクセスを一元管理するために
「i-FILTER ブラウザー&クラウド」を採用

学外からのインターネットアクセスを制御するにあたり山口氏らは、一部の許可されたサイト以外へのアクセスを一律ブロックするホワイトリスト方式は、あえて採りませんでした。同校が目指すICT教育は、「インターネットから広く情報や知識を収集し、活用できるようになるためのICTリテラシーを学ぶ」というものでしたから、インターネットアクセスを大幅に制限してしまってはそもそもの目的が達成できません。また山口氏によれば、別の理由からもあえてリスクを承知でブラックリスト方式を採ったといいます。
「生徒に配布したiPadは、基本的に生徒が一日中自由に使えるものですが、その位置付けは『学校から貸与された文房具』であって、私物のおもちゃではありません。生徒たちにはリテラシー教育の一環として、『私物と貸与物の取り扱いの違い』も試行錯誤の中から学び取ってほしいと考えています。そのためにもホワイトリストで一律にブロックしてしまうのではなく、ブラックリスト方式でフィルタリングを掛ける方式をあえて採ったのです」
そのための具体的な手段として同校が採用したのが、デジタルアーツが開発・提供するスマートデバイス向けWebフィルタリング「i-FILTER ブラウザー&クラウド」でした。国内シェアNO.1を誇るWebフィルタリング製品「i-FILTER」の機能を、スマートデバイス向けにクラウドサービスとして提供するというものです。スマートデバイス上に独自のブラウザアプリを導入することで、アクセスを許可されていないサイトやサービスへのアクセスを一元的に制御・管理できるようになります。
桐蔭学園は、この「i-FILTER ブラウザー&クラウド」を導入することで、学外から生徒がiPadを使って教育上望ましくないサイトやサービスへアクセスすることを制限することにしました。山口氏によれば、スマートデバイス向けのフィルタリング機能を提供する製品はこれ以外にもさまざまあるものの、比較検討を始めてからかなり早い段階で、「i-FILTER ブラウザー&クラウド」の採用を決めたといいます。
「他の製品は運用上の抜け道があったり、よくよく調べてみるとその実態は『i-FILTER』のOEMだったりすることが分かりました。やはりWebフィルタリングの分野では、最も実績が高く、また使い勝手にも優れる『i-FILTER』が最適であろうと判断しました」
使いやすいインタフェースを通じてWebフィルタリングの容易な管理を実現

桐蔭学園における「i-FILTER ブラウザー&クラウド」の導入と運用は、学内に設置されたICT推進のための専門組織「ICT教育委員会」が担当しています。その中心人物でもある山口氏は、「i-FILTER ブラウザー&クラウド」の導入にも直接携わりましたが、その作業は極めてスムーズに運んだといいます。
「インタフェースがシンプルで、非常に直感的に操作できるので、導入や設定、管理に手間取ることはまったくありませんでした。使い方が分からなくてデジタルアーツさんに問い合わせることも、ほとんどなかったですね。その代わり、内部動作のかなり細かい仕様について問い合わせることがあったのですが、こちらの一風変わった質問にも丁寧に答えていただき大変助かりました」
こうして2015年4月より、中学校男子部・女子部の1年生、そして中等教育学校の1年生、総勢約500名の生徒全員に1人1台ずつiPadが貸与され、その運用が始まりました。授業の現場では早くも、ロイロノート・スクールを活用して各教員が独自に工夫を凝らした授業コンテンツが使われ始め、生徒たちも何の違和感もなく端末やアプリケーションを使いこなしているといいます。
なお、「i-FILTER ブラウザー&クラウド」によるWebフィルタリングは、生徒たちの教育への配慮を重んじ、当初からかなり厳しいフィルタリング設定を施していると山口氏は説明します。
「授業の宿題や調べものを自宅で行う際にアクセスするのは、ニュースサイトや情報サイトが中心になります。それ以外のサイトに関しては、かなり厳しくアクセスをブロックしています。とはいえ、生徒たちもこちらの目をかいくぐって、いろいろな抜け道を見付けてきます。例えば、自宅のWi-Fi環境や裏サイトをプロキシにして、制限なしのインターネットアクセスを可能にする裏技もあります。まだ運用は始まったばかりですが、このような技を覚えた生徒たちに対抗するためにも、徐々に制限を強化しつつあります」
運用を開始してまだ間もないものの、授業の現場では早くもアクティブラーニングとICT教育の可能性について手応えを感じているといいます。山口氏は「今回の成果を踏まえ、来年度以降も時勢を見極めながら、ICT教育のさらなる充実に取り組んでいきたいと考えています」と、今後のICT教育の取り組みに自信を覗かせます。
ICT教育環境の拡充を目指し、
桐蔭学園が「i-FILTER ブラウザー&クラウド」を導入
桐蔭学園でiPad導入を担当されている山口先生から「iPad導入の経緯」「各種製品の選定ポイント、導入後の感想」「今後の展望」などについてコメントをいただきました。

【進化する教育環境】
“Agenda 8”を策定し、教育ICT化に着手
横浜市の北部に広大なキャンパスを構え、幼稚部から大学・法科大学院までを擁する総合学園。2014年に創立50周年を迎えたのを機に「自ら考え判断し行動できる子どもたち」を育むため、改革の8つの行動“Agenda 8”を策定し、今年度から新しい6年一貫教育を本格的に実施している。その一つとして教育のICT化を掲げ、この4月より中学校1年(男子部・女子部)および中等教育学校1年にApple社のiPad Air2を導入している。
また、アクティブラーニング(AL)研究の第一人者である京都大学高等教育研究開発推進センターの溝上慎一教授を教育顧問として招聘して授業のプロデュースをしてもらうことで、AL型授業のモデル校になることも目指している。